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複音奏者のためのクロマチック入門(5)


東京クロマチックソサイェティ会誌第16号(2002年9月1日)に掲載された記事です。


 今回は右利きの方を対象に書いています。左利きの場合には、左右を読み替えてくださいね。

タングブロックとパッカリング

 クロマチック・ハーモニカの咥え方には、タングブロックとパッカリングの2種類があります。
 タングブロックは複音のベース奏法の要領でハーモニカを大きく咥え、舌で左の低音部分の穴を押さえ、右の隙間から空気を出し入れします。ただしベースは入れないでメロディを吹きます。この咥え方は、クラシック音楽の奏者に多く見られます。曲全体で均一の音を出すのに向いています。細かな音の速いフレーズを吹くにも適しているように思います。
 パッカリングは吹きたい音の穴だけを咥えるやり方です。口腔内の空間の形や舌の位置などによってハーモニカの音色は大きく変化するので、音色を変化させる効果を多用するジャズやポピュラー音楽の奏者が好んで使います。この咥え方でクラシックを吹く場合には、音色をあまり変化させないよう自制しなければなりません。
 どちらもマスターしておくのがよいでしょう。タングブロックの応用として、オクターブ奏法があります。またその応用として左と右の隙間から交互にオクターブ違いの音を出す奏法もあり、ブラジル系の音楽を演奏するのに必要だとのことです。

ハンドカバー奏法を試しましょう

 複音でもハンドカバー奏法は習得していると思います。これを単音のクロマチックに応用すると、複音のときとは一味違った懐かしいハーモニカ独特の音がします。
 クロマチックでは右手の指でスライド・ボタンを押しますので、ハンドカバー奏法で動かすのは左の手のひらになります。これは利き腕でないために案外難しいので、左手を動かす訓練が必要になります。私は通勤時に電車の中で左手を動かす練習をしてようやく動くようになりました。
 クロード・ガーデンさんのハンドカバーは、手のひらの先ではなくて手のひらの根元が動いているようです。しかも右手です。左手を動かすのが難しい人は、このやり方を参考にするといいかもしれません。
ハンドカバーの効果は、左手のひらで作った窪みを右手のひらで蓋をしたり開けたりすることで得られます。初心者で、この蓋をするのを理解せずに、手のひらだけ動かして中々効果が出ないと嘆く人がいますが、動かすのを真似るだけでなく、しっかり耳で音を聞いて効果が出ているかどうか確かめながら演奏しましょう。
 手を動かす速さにも気を配りましょう。あまり速すぎると、ポポポポポポという感じになり、それほど感じの良い効果は得られません。また、手を動かすことによって、曲のテンポが取れなくなる人がいます。適度な速さは、スローな曲で4分音符あたり4回ぐらいにすると、手を動かしながら曲のテンポを追いかけていくことができます。ムーン・リバーなんかで試してください。
 クラシック奏者の多くは、ハンドカバー奏法によるビブラートを使っているようです。あまり派手なハンドカバーの効果を出すと、曲の雰囲気を壊してしまうので、それぞれの奏者により工夫があるようです。全部蓋をしないで一部開けたまま手を動かすとよいでしょう。チェン・バー・ハンさんは、左手の小指と薬指の2本だけを動かしていました。
 ポピュラー系の場合、派手なハンドカバーが中々効果的ですが、1曲全部をハンドカバーで演奏すると飽きっぽくなりますので、曲のある部分に限定して使うといいでしょう。前述のクロード・ガーデンさんのハンドカバーの使い方がまさにそうで、聞いていてぐっときますね。彼はいろいろなビブラートを使い分け、しかもいやみがなく、まさにポピュラー・ハーモニカの神様的な存在です。CDを鑑賞しましょう。
 故ラリー・アドラーさんは、普通には舌を動かすビブラートを使っているのだけれど、オクターブ奏法では舌が使えないのでハンドカバーを使うとおっしゃっていました。
 なお、ビブラートのかけ方はハンドカバー以外にもたくさんありますので、次回からビブラートについて説明することにしましょう。



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