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複音奏者のためのクロマチック入門(3)


東京クロマチックソサイェティ会誌第13号(2001年12月1日)に掲載された記事です。


5線譜を読もう
 複音ではもっぱら数字譜が使われています。クロマチックでは、ぜひ、5線譜を使っていただきたい。使いなさいと断定的な言い方をしないのは、世の中にはいろんな人がいて、どんな調子も数字譜に直している人、楽譜が読めなくて、すべてアドリブで上手に演奏する人、穴番号に頼る人などがいることがわかってきたからです。私は、推奨として、5線譜を使っていただきたいという表現にします。
 その理由を説明しましょう。まず、クロマチック・ハーモニカでは一本でどんな調子も吹くということを理解しましょう。複音の場合、C調とC#調の2本をもってどんな調子の曲でも吹くということはあまりしません。たとえば、A調の曲であればA調のハーモニカを使った方がずっと楽に、スムーズに吹けます。「赤とんぼ」の場合で考えてみましょう。C調の場合の5線譜は次のとおりです。

数字譜では(高さを表すための点を省略します)

A
 511 ・2|35165 |611 2 |3 - 0 |365・6|165653|531321|1 - 0 ||

と書き表すことでしょう。C調のときと異なるのは、Aという調子記号がつくことだけです。
 一方、これをC調とC#調のハーモニカ用に書くとすれば、A調の5線譜は次のようになりますから、

C#
C
 366 ・7|#136#43 |#466 7 |#1 - 0 |#1#43 ・#4|6#43#43#1|3#16#176|6 - 0 ||

と書き表すことになります。なにか、煩雑ですね。
 また、Eb(D#)調でも考えて見ましょう。

複音一本のときはD#調のハーモニカに変えて、数字譜上はD#と書き換えるだけですが、C調とC#調のハーモニカ用に書くとすれば、

C#
C
 b7b3b3 ・4|5b7b31b7 |1b3b3 4 |5 - 0   |51b7・1|b31b71b75|b75b354b3|b3 - 0 ||

と書くか、b(フラット)で書くと吹き吸いの関係がわかりづらくなるので#(シャープ)に直して

C#
C
 #6#2#2 ・4|5#6#21#6 |1#2#2 4 |5 - 0 |51#6・1|#21#61#65|#65#254#2|#2 - 0 ||

と書くことになります。これでも演奏はできるのですが、bがつく音がBb、Eb、Abであるという楽理がわかりづらくなります。5線譜流に、

Ebの曲
 733 ・4|57317 |133 4 |5 - 0 |517・1|317175|753543|3 - 0 ||

と書き、7と3と6にフラットがついていると思わせる手もあるかもしれませんが、果たしてこのような書き方を採用している人達はいるのでしょうか。
 5線譜では、調子記号は最初にだけ書いて、以降の小節に現れるのは臨時記号のシャープ、フラット、ナチュラルの記号だけですから、譜面的にはすっきりします。また、音楽界一般に使われている記法ですから、楽理を展開して行く上ではもちろん問題ありません。また、市販の楽譜をそのまま使えるという大きなメリットがあります。
 こうしてみると、数字譜というのは複音ハーモニカのような移調楽器を対象にしたときには便利であるが、いろいろな調子の曲を1本でまかなうクロマチック・ハーモニカには便利な記法ではないということができます。
 5線譜をいやがる複音奏者の方はたくさんいます。多分、数字譜の数字は音を表すと同時に、吹き吸いに関する情報も与えてくれるのに対し、5線譜のおたまじゃくしがそれを与えてくれないからではないでしょうか。
 しかし、複音を最初に学んだときにも、多分1、2、3という数字とド、レ、ミという音が結びつくまでにかなり苦労しているはずなのです。少なくとも私にはそうでした。戦後生まれの若い世代は小学校、中学校でちゃんと5線譜の読み方は習ってきているはずなので、クロマチック・ハーモニカから吹き始める人には5線譜の方がずっとわかりやすく感じるはずです。複音からの人も最初に数字譜を学んだときの初心に戻って、5線譜に取り組んでみましょう。


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