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リフレッシュ休暇


関東ハーモニカリーグNo.13(2001年4月)に掲載

 会社勤続30年を超えた1999年、2週間のリフレッシュ休暇の権利が貰えました。丁度FIHの国際ハーモニカ・フェスティバルがフランスのドーヴィルで開かれる年であり、参加しようと心に決めていました。ところが、6月頃に中止の報が流れ、代わりのフランス・ハーモニカ連盟主催の"ハーモニカ・ビッグホリディ・イン・パリ"(関東ハーモニカ・リーグNo.9 2000年1月刊を参照)が開かれるとの案内は受けたものの、拍子抜けして見送りました。
 すると、IHO(国際ハーモニカ連盟)が2000年にイギリスで「ミレニアム国際ハーモニカ・フェスティバル」を開くというニュースが舞い込んできました。うむ、2000年か、これは記念になるとすっかり乗り気になりました。
 さて、まず家内の承諾を得なければなりません。20年目のリフレッシュ休暇時は一家四人でヨーロッパへ行ったのですが、今回は子供も大きいし、家には愛犬がいるしということで一人でいくつもりなので、どう言いくるめるかは悩ましい問題でした。1999年から行くとつぶやいていたのと、ふだん互いの趣味の領域には踏み込まない暗黙の約束があるのと、生命保険会社が破綻した解約金が手元にあって家内からの資金を当てにしなくてよいこと(亡くなってから保険金が降りるより、生きているうちに使えるというのはある意味でラッキー)、30年も会社で働いたから今度は一人で行くぞとの強い宣言で、なんとか納得してもらえました。
 計画に入りましたが、ツアーではないのですべて一人で決めなければなりません。現地での観光は列車がよいかバスがよいか、宿は民宿であるB&B(Bed and Breakfast)がよさそうだなどとガイドブックを買って研究しましたが、表紙の裏に載っている広告の旅行社が個人旅行を手配してくれるというので資料をとりよせ、その中からイングランド・スコットランド3泊4日というバス・ツアーとスコットランド4泊5日というバス・ツアーを選びました。残りは、のんびりとイギリスの田舎ですごしたいのでコッツウォルズのB&B、そしてミレニアム国際ハーモニカ・フェスティバルが開かれるボーンマスまで列車で移動と列車もバスも取り入れたプランにしました。
 バス・ツアーの日程から8月23日出発と予定したのですが、格安の秋料金の大韓航空が取れません。バージンアトランティックにしましたが、こちらは夏料金なのでここでぐっと予算オーバー。
 いよいよ出発。米国滞在経験豊富な私でも、列車とかバスを海外で一人で乗る経験は初めて。何となく不安でしたが、現地に着いて見れば結局日本とそんなに変わらないなと今となっては言えます。また、一人なのでくそ度胸も付くものですね。
 今回、色んな経験をしたいと思っていたので、ロンドンでは2階バス乗り放題の市内観光のあとミュージカル観劇に挑戦。「オペラ座の怪人」の劇場へ行ったところ、満席でした。あきらめかけたところ、ダフ屋が近づいて12.5ポンドの切符を50ポンドでどうと聞いてくる(1ポンド160円くらい)。高いといって離れると追いかけてきて30ポンドにするという。ここで考えて、日本ではオペラの切符なぞ安くて7、8千円するなと思い付くと、よしと買うことにしました。結果的にはロンドンの夜のよい過ごし方を経験でき、最初のバス・ツアーの後、もう一度ロンドンへ戻ったので、「ノートルダム」というミュージカルを今度は10ポンドの正規料金で観劇できました。本場のミュージカルはいいですね。
 最初のバス・ツアーはケンブリッジ経由で東回りにヨークなどを経てエジンバラへ。西のウェールズをちょっと回りチェスター、シェークスピアの生家、ウェッジウッドなどかなりしっかり観光してくれました。問題は英語です。ガイドさんは下町の英語をしゃべるので、最初中々理解できませんでした。「今日はよい日でしょう」というのに、「トゥダイ イズ グッドゥ ダイ、オーカイ?」てな感じです。帰国してからBSテレビで映画「マイフェアレディ」を見たら、今度は下町なまりをからかっている意味がとてもよくわかりました。
 二つ目のバス・ツアーは、今度は西回りにグラスゴー、ネス湖、スカイ島、ロッホ・ローモンド湖エジンバラ、ロンドンと回るのですが、こちらは距離が長いため、ひたすら高速道路をひた走りです。休憩も必ず高速の休憩所。最初のツアーは休憩は観光地の町中だったのでこれにはかなり失望しました。エジンバラに2回行ったことになりますが、最初のツアーでは城内をたっぷり見られたのに今回は城の前で10分ほど自由時間があっただけです。
 ただ、こちらのツアーでは2泊したフォートウィリアムスのホテルでのエンターテイメントがあり、それなりの楽しみはありました。酒場で音楽とダンスをやっているので、知り合いになった日本人のお嬢さん(日本人は2人しかいなかったので私でも知り合いになれた)と降りて行きギネスのビールを飲んでいると、次の音楽でなんとハーモニカの演奏が始まったのです。ホーナー製のコメットというオクターブ・ハーモニカでキーボードの伴奏でおじいさんが楽しく吹いています。これは挨拶しなくてはと、「日本からきたハーモニカ吹きです。」といって握手しました。すると吹いてみるかとコメットを貸してくれます。そこで、「ヒンキ・ディンキ・パーリ・ブー」をベースを入れて吹きました。この曲はあちらのハーモニカで吹くと和音がきれいでとてもいいのです。やんやの喝采です。2曲目は、クロマチックをポケットから取り出して「マイムマイム」を吹きました。
 翌晩も降りて行くと、今度はあちらからお呼びがかかり、吹いてくれといいます。日本の曲紹介と言って、「二人でお酒を」を吹きました。ダンスタイムにあちらのフォークダンスに参加したり、ブルースを踊ったり。給仕役の女性と踊りながら話を聞くと、その方は84歳で、ハーモニカを吹いていたおじいさんはなんと87歳だとのことです。毎晩ここで夕べを過ごしているのだと。かなり早いパッセージを吹いていましたよ。退席するときは皆んなから挨拶されとてもいい気分でした。

左が84歳の給仕役のおばあさんと87歳のハーモニカ吹きのおじいさんコンビ

 翌日、ロッホローモンド湖の遊覧船に乗っていると、イスラエルから来た女性が話しかけてきました。「夜、マイムマイムを聞いたのでとてもよかった。」というのです。日本のフォークダンスの事情などで話が弾みました。帰りのバスでもハーモニカを所望する声がたくさんありました。吹きはしませんでしたけど。
 バス・ツアー後は列車でコッツウォルズのバートンオンザウォーターへ行き、B&Bでのんびりイングランドの萱葺き屋根も有る田舎風景を楽しみました。さらに列車で国際フェスティバル会場のボーンマスへ。ここでの経験は、「口琴藝術No.157」2001年2月刊に「ボーンマス ミレニアム国際ハーモニカ・フェスティバル参戦記」として掲載されています。また、私のホームページでも掲載しているので、ご覧下さい。
コッツウォルズ地方チッピング・カムデンの萱葺き屋根の民家
すばらしく手入れされているけれど維持費が大変そう

 列車とバス・ツアーの旅を比較してみると、バス・ツアーではツアー内の外国人(今回は南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど英語圏の人が多かったがトルコ、韓国、イスラエル、ドイツ、アメリカの方もいた)と大体知り合えるよさがあります。列車はガラガラで話をすることもなく景色をみているか、ロンドン近くだと通勤列車になってしまうのでやはり話せない。
 でも、フェスティバル後に泊まったロンドン近くのB&Bは本当に住宅街の真中の一般住宅で、安くて家人ともお話ができてなど、あれやこれや考えてみると、一人旅であるがゆえの冒険や緊張感もあり、中々充実した3週間のリフレッシュ休暇ではありました。留守番してくれた奥さん、定年後には一緒に行こうねと約束手形を振り出しておきますね。

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