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複音ハーモニカとクロマチックハーモニカ


 


口琴藝術No.170(2005年夏号)に掲載された記事です。

クロマチック・ハーモニカ愛好家 真田正二

:本日は複音奏者「フさん」とクロマチック奏者「クさん」においでいただき、それぞれのハーモニカについて徹底比較してみたいと思います。まず、両方のハーモニカってずいぶん音色が違いますよね・この違いはどこから来るのでしょうか。

:はい、複音ハーモニカの「複」という字は、一つの音を鳴らしたときに上下の穴に入っている二枚のリードが音を発するところからきています。しかも単純に同じ高さで鳴っているのではなくて、ほんの少し音程を変えてあるのです。すると、二枚のリードの相互干渉によって、音の揺らぎが出てくるのですね。この揺らぎによって、自然にビブラートがかかるのです。この原理はアコーディオンでも同じです。アコーディオンでは二枚、三枚、四枚などのリードの発音数をボタンで変えられるようになっていますから、より複雑な音色の選択が可能なのですが。

:というと、ただ吹いているだけでビブラートがかかるのですか。

フ:そうなんです。ですから、初心者でもきれいな音が出せるわけなんですね。

:それは便利ですね。(笑)

:クロマチックではどうなんでしょう。

ク:クロマチックの場合、一つの音は一枚だけのリードが音を出します。自然にビブラートがかかるということはありませんので、演奏者が意識的(または無意識的)にビブラートをかけます。初心者のうちは演奏に手一杯でビブラートをかける余裕がないのが現状です。

:ビブラートをかけないと、バイオリン初心者みたいなキーキーした音になるんですか。

:そうですね。ノー・ビブラートの音は、聞いていると耳に痛く感じますね。ビブラートがかかっていると柔らかい音になります。

:ビブラートのかけ方って、なにか標準的な方法があるのでしょうか。

:色々なかけ方があります。奏者によって方法が違ったり、それらをフレーズごとに変えたりするので、演奏者によってずいぶん音色が異なりますね。

:どんな方法があるのでしょう。

:ざっというと、手でハーモニカをカバーして開いたり閉じたりするハンド・カバー奏法、手の前後の動きを利用するハンド・ビブラート、喉の動きを利用するスロート・ビブラート、横隔膜の動きを利用する横隔膜ビブラートなどがあります。

:複音ではどうなのでしょう。

:原理的にはどれも可能ですね。上級者になればなるほど、単純なリードの音程差から来るビブラートだけではなく手の動きやハンドカバー奏法を使っているのが観察できます。

:そうしますと、奏者によってかなり音色の差がでるのですか。

:ええ、I先生、M先生、S先生、O先生など皆個性的な音色をしていらっしゃいます。

:途中で音程が下がったりする奏法がありますね。

:フェイク奏法ですね。トゥーツ・シールマンスさんの演奏なんか、とってもブルージーですよね。あれは、息漏れがないハーモニカで、息を絞った吹き方をすると音程が下がることを利用します。

:複音奏法の場合、息が二箇所に流れるので息漏れと同じで、音程は下がりませんね。しかし、単音奏法といって一枚のリードだけを鳴らす奏法の場合は、クロマチック同様に音程を下げることができます。

:フェイク奏法の場合、長い間音程を下げ続けるのはよくないですね。「荒城の月」のバイオリン奏法の部分でよく音程を下げたまま吹き続ける人がいますが、聞いていて明らかに音程が下がるので音楽効果としてはよくないですね。

:そうなんです。秀廊先生からは音程は下げないでと指導されましたが、一見バイオリンのような音になるので効果的だと勘違いして音程をさげたまま吹く方がまだまだいらっしゃいますね。二枚のリードの内、音程が高い方を使って吹くのだと指導されましたが、特性トンボ・ハーモニカでも時代によって上のリードが高くなっていたり、下のリードが高くなっていたりするので、よく気を付けないといけません。CとC#の二本持ちのときにこれが時代が違う二本だととても困ります。(笑)

:そういえば複音の演奏では、置き台にハーモニカをたくさん並べて取っ替え引っ換え演奏しますがどうしてでしょう。

:複音ハーモニカというのはピアノの黒鍵に当たる半音が出せない楽器なんですね。それでいろんな調子に合わせたハーモニカが用意されているのです。長調で十二調子、短調で十二調子ありますから全部で二十四本必要になります。加えて、自然短音階用を揃えようとするとさらに十二本必要になります。転調を繰り返すような曲では、あらかじめ使う調子のハーモニカを置き台の上に並べておくのですよね。

:二十四本ですか。金額的にも大変ですね。

:ええ、最近は一本一万円近くになってきましたので。

:うぅ。クロマチックでよかった。(笑)

:クロマチック・ハーモニカの値段はおいくらですか。

:3オクターブのもので一万四千円、4オクターブのもので二万円からありますが、最高峰の銀製のものは二百万円するようです。

:ガーン、複音でよかった。(笑)

:クロマチックは一本でよいのですか。

:故障対策として複数本は必要ですが、原理的には一本でどんな調子の曲も吹けます。クロマチックという単語の意味は半音階という意味です。ボタンが付いていて、ピアノの黒鍵にあたる音の場合、ボタンを押すと音が半音上がる仕組みです。

:複音でも合奏のときはC調とC#調の二本を使いますね。でも、二本の切り替えが多くなる#やbがたくさん付く調子まではカバーしないですね。独奏の場合、複音では調子が変わるとその調子のハーモニカを選ぶだけですから初心者には取り付きやすい楽器といえますが、クロマチックの人はどんな調子でも一本で吹いてしまうのですか。練習は大変ではありませんか。

:大変です。(笑)昨年ヨーロッパに行ったとき、あちらの教室のおじさん、おばさん達を見ていましたら、C調、G調、F調と三本のクロマチックを曲に応じて使い分けていました。練習を大変にしない工夫といえますね(笑)

:なーるほど。

:ヨーロッパにはどうもC調とC#調の複音ハーモニカを使うという概念そのものがないようで、C#調の複音なんて売っていませんね。でもやはりハーモニカは大衆用の楽器なので色んな調子のクロマチック・ハーモニカが用意されていて使われているのですね。

:一本で吹く場合、やはり色んな調子の音階練習をなさるのですか。

:はい。一般の吹奏楽器でも弦楽器でもまず無意識に吹ける位になるまで音階練習をしますよね。クロマチック・ハーモニカでも同様です。と胸を張っていいたいところなんですが。(笑)実は学生時代からいわゆるハモソで育ったわけなのですが、その頃は基礎練習なんてものはなくていきなりbが3個の曲とか#が4個の曲が配られるので、ドレミファソラシドの中でシとミとラにbが付く、ファとドとソとレに#が付くなんて捕らえ方で演奏していました。それでも演奏はできるわけなんですが、やはり楽器へのアプローチとしては間違っているわけで、四十代でハーモニカに取り組み直すときに改めて音階練習をやり直しました。夜中の犬の散歩のときに十二の長調の音階を頭の中で考えながら小さな音で練習しました。最初は難しくて散歩が終わるまでに三つの調子しかできないなんて感じでしたが、だんだん慣れてきて最終的には散歩の間に全調子できるようになりました。できるようになってから改めて考えて見ますと、学生時代の吹き方がいかにいい加減だったかよくわかります。

:複音の場合、音階練習はされるのですか。

:さあ、どうなんでしょう。複音の場合、原理的にはハ長調の音階ができればどんな調子に変わってもハーモニカを替えるだけですから、各調子ごとの音階練習はいらないでですね。ただ、低音部と高音部はご存知のように音の配列がちぐはぐになっていますから、かなりの音階練習が必要ですね。また、マイナー・ハーモニカはメジャーのハーモニカとは配列、吹き吸いの関係が違いますので、それぞれの音階練習は必要です。

:クロマチックの音の配列はちぐはぐではないのですか。

ク:ええ、幸いなことに。一つの穴ごとにドレ、ミファ、ソラ、シドとリードが入っていますので、4個の穴で1オクターブをカバーしています。それで次のオクターブもまた同じ繰り返しになっていますから、どのオクターブでも配列は同じなのです。ドの音だけがダブってはいっています。

:ド・ダブリの配列ですね。複音でも標準配列のものはド・ダブリの配列になっていてちぐはぐ配列ではありません。合奏のときには有利だと思いますが、独奏と合奏でハーモニカを変えると混乱するのであまり使われていませんね。また、標準配列のものはボディがプラスチックのものしかなくて音質的にちょっと不満です。特性トンボのような音質の標準配列のハーモニカを作ってくれるといいのですが。

:複音とクロマチックの大きな違いで、複音ではベースや分散和音などの伴奏を入れた独奏が広く行われ、クロマチックでは伴奏は別の楽器でなされるということがあると思いますが。

:一度上手な複音奏者の方がピアノ伴奏で「荒城の月」をベースを入れずに素直に吹いたのを聞いたことがありますが、あまりの素晴らしさに驚いたことがあります。

:そうですか、「荒城の月」といえば秀廊先生の編曲で決まりというイメージがありますが。ところで、秀廊先生以後、複音の独奏用のよい編曲が増えているように思えません。これはどうしてかと常々考えているのですが。

:秀廊先生の時代の叙情的な曲というのはいわゆる主要三和音のコード進行が多かったと思うのです。それで複音の日本的奏法で、特に短調の曲はよく複音ソロに合うと思います。ところが最近の曲というのはコード進行が主要三和音に限られず、循環コードとかジャズのコード進行とかが使われることが多いのですね。そのため、ベースや分散和音を入れるとすごく違和感のある演奏になってしまうのだと思います。

:あ、なるほど。複音の演奏会のハイライトでは「「荒城の月」、「青葉の笛」、「城ヶ島の雨」などが定番で演奏されますが、もっとバラエティが欲しいですね。一部ではバッハの曲をベースなどを入れないで演奏する試みとか、ピアノ伴奏やチェンバロの伴奏でバイオリン協奏曲や「チゴイネルワイゼン」、「チャルダッシュ」などを演奏することが行われていますね。

:香港大会で複音部門の上位入賞者はピアノ伴奏でしたね。若い入賞者にお話を聞いてみたら、最近の曲の曲集を出版されたとのことでしたが、ピアノ伴奏を主体にしているということでした。新しいアプローチが始まっているのだなと実感しました。

:香港大会で思い出しましたが、コンテストのカテゴリで、ピアノ伴奏による複音ソロと純粋な複音ハーモニカだけによる伴奏付きソロは分けたほうがよいのではないかという意見がありましたね。確かにピアノ伴奏で難曲を吹くのであれば、クロマチック部門と近いのかもしれません。

ク:そういう意味では鈴木楽器から発売された「複音クロマチック・ハーモニカ」(トレモロクロマチックSCT-128)というのが登場してきましたね。これを使って「子犬のワルツ」を吹いているのを聞いたことがありますが、複音の音色であるのにクロマチックの演奏であるというなんともハイブリッドな演奏でした。

:そのハーモニカを使うと、コンテストではどのカテゴリになるのでしょう。

フ:うーん、これは難しい問題ですね。(笑)このハーモニカではベースなんか入れないのでしょう。

:そうですね、演奏方法はまったくクロマチックと同じですから。クロマチックでベースを入れないのと同様に複音クロマチックでもベースを入れると変な音になりますからね。クロマチックと違うのはフェイク奏法ができないことぐらいですか。リードが二枚鳴るので、息漏れがしているのと同じでフェイクできないのです。その意味でジャズには向かないですが、シャンソンのアコーディオンの曲なんかとてもよく合うと思います。

:そのハーモニカはどんな構造をしているのですか。

ク:これは中々のアイデアでして、同じ穴の中にリード二枚が縦に並んでいるのです。低音部はリードが長いので、ハーモニカの低音部がとても広くなっています。これはハーモニカの歴史の中でも革命的なデザインだと思います。ケースに入れるとまるでピストルのように見えるので、鈴木楽器の方が空港でいつもハーモニカだと説明しなければならないんですとおっしゃっていました。(笑)吹き方はまったくクロマチックと同じです。

:というと、複音奏者がそのハーモニカを使うより、クロマチック奏者が使うほうが簡単そうですね。しかも音色は複音なんだ。これは複音界もうかうかできないですね。(笑)

ク:現在の所、複音クロマチックの二枚のリードの音程差がほぼ複音ハーモニカと同じように調律されていますので、ビブラートの速さ、つまりトレモロの速さは複音ハーモニカと同じなんですね。市販されてはいないですが別にクロマチック・ハーモニカ二本を束ねたような特性のクロマチック・ハーモニカ(MUSETTE)が存在するのですが、こちらは二枚のリードの音程差を少し大きくしてありましてシャンソンのアコーディオンのような音色がします。シャンソンの曲を演奏するのなら、これくらいの音程差の方が向いていますね。

:自分で調律すればいいのですね。複音でも音程差を変えたハーモニカを用意することがありますから。

:そのとおりです。

:マイナーの複音クロマチックというのも考えられそうですね。Amだけだと高すぎることが多いのでGmなんかもほしい。

:一本六万円として十二本で七十二万円。まあがんばってください。(笑)

司:複音ハーモニカとクロマチック・ハーモニカの違いから、両者の融合したハーモニカの登場まで語っていただきました。確かにコンテストのカテゴリでは主催者側が悩みそうですね。話題は尽きないと思いますが紙面が尽きましたので本日はこのへんにしたいと思います。お二人ともどうもありがとうございました。

:どういたしまして




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