直線上に配置
クロードさん、さようなら

 


東京クロマティックハーモニカソサェティ会報第26号(2005年3月1日)に掲載された記事です。


クロマチック・ハーモニカ愛好家 真田正二

クロード・ガーデンさんとの最初の接触は、大学ハモソの先輩から借りたLPを通してでした。クラシック1枚とポピュラー1枚です。クラシック盤には「チゴイネルワイゼン」、「熊蜂の飛行」が入っており、その速吹きに驚嘆しました。方やポピュラー盤には「Greensleeves」、「Caravan」、「心の傷あとのブルース」などが含まれており、華麗なビブラート、自在な音色の変化、アドリブの妙味にすっかり魅了されてしまいました。大学卒業後は合奏の機会もなかったので、いろいろなLPから音を採譜して一人で楽しんでいました。クロードさんのレパートリーは難しいのももちろんありますが、丁度楽しめるほどの難易度のものも多く、色々な技法を学ぶ上でとても参考になりました。

あるときクロードさんがポール・モーリア楽団と来日され、それは聞き逃しましたが、その翌年、斉藤先生の招きでサントリー・ホールでのコンサートが開かれ、聞きに行きました。それと前後して全日本ハーモニカ連盟のフォーラムが開かれ、夜のパーティに参加すると、クロードさんの姿も見えました。近づいて私が持参した採譜集を見せ、あなたの曲を練習しているといって「心の傷あとのブルース」をちょっと吹いて見せました。お顔がパッと輝いて、「オー、マイムービー」とか何とか言って喜んでおりました。その後、彼が演奏しましたが、森本先生が「音の切れ目の終わり方がうまいねー。」とつぶやいていらっしゃったのを覚えています。そういう聞き方もあるのだなあと印象に残っています。しばらくしてクロードさんが手招きして、「誰にも言わないでね。」といってクラシックのテープ、サルバトーレ・ダリさんが写っているものを1本くれました。

翌週だかに斉藤先生がクロードによる講習会を開いてくれましたので2度参加しました。特に目的意識はなかったのですけれど、前の受講者のジャズ・ハーモニカ奏者藤原さんがビブラートを教わっているのを目にし、迷わずそれだ!と教わることにしました。それまで手を前後に動かすかハンド・カバーか喉のビブラートしか知らなかったので彼の横隔膜ビブラートには憧れておりました。130分の講習の中で、横隔膜が揺れるとはどういうことかということを斉藤先生の奥様の通訳で説明してもらい、目からうろこでした。すぐにはできないので1週間後に再度復習に行きました。

彼の帰国に際し、講習会場で送別会が開かれ、手作りの料理を持ち込んだパーティーが始まりました。彼は大喜びで、その訳は各国で演奏会に出演するけれど、ギャラをくれるとそれで終わりで交流なんかないのだそうです。それ以来、日本が大好きになったようで、何度も来日して華麗な演奏を聞かせてくれました。

思い起こせば色々な接触がありました。日仏会館での演奏会と昼食会、ピクニック・コンサートへの顔出し、モリダイラ楽器での講習会、セピアでの演奏会と打ち上げ、連盟フォーラムのパーティ、厚木大会の花火をアドラー・トリオのミカさんと3人で眺めたこと。

最後の接触は香港大会でした。第1印象で、体つきがすごく変わっているのに驚きました。小太りで顔もパンパンです。会場内でも気楽にハーモニカを咥え、奏法を教えてくれました。今回は彼流のハンド・カバーの方法、舌を急速に動かす奏法などを教えてもらいました。ジャズのガラ・コンサートのリハーサル風景にも誘ってくれました。

その後、日本で東北演奏旅行があると聞いていましたが、途中で腰を痛めて帰国して入院したと聞き、心配しておりましたところ、129日に訃報が届きました。膵臓癌による肺炎が原因で、67歳だそうです。振り返れば、香港での風貌は強い抗癌剤と闘っていたからだと思われます。

彼の講習を受けて依頼、私のハーモニカの音色探求への長い旅が始まりました。教わったビブラートも最初は速さが出せず苦労しましたが、最近、彼のレコードを聞きながらビブラートを合わせてみると、かなり合わせられるようになっています。しかし、彼独特のビブラートの中での音量変化というのに最近気付きました。奏者を書いてないLPを聞いてすぐクロードさんだとわかりましたが、なぜわかるのかというとどうもこの辺りに秘密があるのではないかと思います。

彼の亡き後も彼のCDはたくさんあります。直接教わることはできなくなりましたが、これからも彼の演奏を参考に腕を磨きたいと思っています。ふっと彼の演奏中の表情が浮かぶことがあります。あの遠くを見つめながら演奏する姿にも音色の秘密が隠れています。そんなことを色々思い出しながらハーモニカと付き合っていきます。

 クロードさん、さようなら。




トップ・ページ・アイコン
トップページへもどる

お話へもどる

直線上に配置

©copy right 2004 Shoji Sanada, All rights reserved