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ブンゲさんの教え

 


口琴藝術No.168(2004年秋号)に掲載された記事です。


クロマチック・ハーモニカ愛好家 真田正二

香港大会でドイツのジャズ・ハーモニカ奏者、イェンス・ブンゲ(Jens Bung)さんに再会することができました。ブンゲさんは厚木大会でも審査員、ガラ・コンサートの奏者として参加された方です。

そもそもブンゲさんと知り合った最初のきっかけは、インターネットで彼のホームページを見つけ、CDをどこで買えるかとEメールしたときからです。「レコード店でも買えるが、厚木大会に持っていく、しかし一番いいのは私から買うことだ。」との返事をもらい、「ではあなたから買うから。」と住所を知らせたところ、次のメールは「今CDを送った。」でした。え、こちらはまだ送金もしていないのにとびっくりしたものの、ハーモニカ仲間っていいものだと実感したものでした。

厚木大会での私の役目は外人さんの通訳でしたので、大会中は審査の打ち合わせや最後の役員会まで通訳としてお付き合いしました。彼の英語はわかりやすくて助かります。

その後もインターネットの掲示板などでときどき彼と意見を交わしたりしていました。20046月にオーストリアの音楽祭に行くので会えないか打診したときは、インスブルックは遠すぎていかない、香港で会おうとのことでした。え、香港の方が近いのかな?

香港大会では彼がジャズ・ハーモニカのセミナーを開くというので参加しました。内容はAmの「サマータイム」を題材にアドリブを実践するというものです。アドリブには垂直方向のアプローチと水平方向のアプローチがあるというのは前知識として持っていました。垂直方向というのはコード・ネームの進行に従ってアドリブ・フレーズを組み立てるものです。水平方向というのは、コード・ネームごとに捕らえるのではなくて数小節を単位としてその中でのアドリブ・フレーズを組み立てるものです。ブンゲさんの講義は水平方向のアプローチらしく、コード・ネームやスケールの話はほとんど出てきません。ギターのウリ・バグナー(Uli Wagner)さんの伴奏を聞きながら、それに合った音を繋ぎ合わせてアドリブしていくのです。吹いてみて、合う音を瞬間的に探すといいます。で、合わない音を繋げるとこんなのになるとデモもしてくれたのですが、バグナーさんが「それ、本当に合わない音?」とチャチャを入れます。瞬間的に合う音を吹く癖が付いているらしく、へたくそなアドリブってできないみたいでした。フォローとしては、合わない音はテンション(緊張する音)と思ってすぐ合う音に戻すのだという説明でした。

で、コード・ネームの説明はまったくなしに会場からの参加者を募ってきました。二人ばかりが挙手してやって見せました。一人は10 ホールで、アドリブできるけど様々なアイデアが湧いてこなくて単調になるという悩みを相談しました。色々なプロの演奏をよく聞くことだというのが回答でした。

最後の一人を募るとき、わざわざ香港の通訳経由で、日本人で参加する方いませんかと問いかけてきました。ひゃー、来たなーと首をすくめましたが、隣のMさんは英語わかりませんという顔をしています。度胸を決め出て行きました。でも正直に、私の欠点は、よく迷子になってしまうことですと告げて吹き始めました。案の定、途中迷子になりかけましたが、バグナーさんが心配しながら大きな音で伴奏をしてくれ、なんとか最後までたどりつきました。会場の拍手はこういうとき心強いものですね。

ブンゲさんが、プロでもよく迷子になるのだとフォローしてくれました。(これ、本当だろうか。)迷子にならない秘訣は、彼の場合、アドリブしながら頭の中でその曲のメロディも追いかけているのだそうです。私はアドリブ・フレーズが好きですが、あくまでそんなアドリブ的なメロディなのだと思って吹いてしまいますから、元のメロディなんかまったく頭にありません。それがいつまで経っても本当のアドリブができないし、またやると迷子になってしまう原因かなあと痛感させられました。ジャズ界の人って聖徳太子のように一度に複数のことを頭で考えられるのですね。

セミナーの後、ブンゲさんとバグナーさんがオープン・ステージで演奏するところに出くわし、ここでも会場から参加者を募っていました。誘われましたが、その場でアドリブするのは無理なので、こちらが持っているアドリブ・フレーズ付きの「サマー・タイム」の楽譜を渡し、バグナーさんのギター伴奏で私とブンゲさんがアドリブする(私のは書き譜、ブンゲさんは当然アドリブ)という形で1曲演奏させてもらいました。

帰国以来、通勤電車の中でメロディを追いかけながらアドリブ・フレーズを組み立てる練習をしています。少しずつではありますが、両方が思い浮かべられるような気がしてきていますが、ハーモニカを持つと、とたんにメロディはどこかへ飛んでいってしまいます。でもめげずにこの水平的アプローチを試みています。徐々に徐々に進歩する実感があり、ブンゲさんのセミナーは効果があったのだと感謝しています。

2005年、11月のトロッシンゲン大会、ぜひともブンゲさんと本当のアドリブでジャム・セッションしてみたい気持ちで一杯です。曲はやっぱり「サマータイム」かもしれない。


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