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ハーモニカを教えるということ

関東ハーモニカリーグNo.16(2001年10月)に掲載された記事です。いろいろな奏者、先生に同名のタイトルで原稿を依頼したシリーズものの一環です。

 私の場合、今のところハーモニカは主に合奏の中で教えています。複音、クロマチック、ホルン、バス、コードなどが入り混じった編成となります。したがって、教える身としては、これら全てのハーモニカの知識が必要です。
 社会人の合奏と大学生の合奏では際立った違いがあります。大学生の場合には調子にあまり気を使う必要はありませんでした。#がいくつ付こうがbがいくつ付こうが、途中で転調しようがお構いなしです。フルート、ピアノ、ギター、アコーディオンなど、どの調子でも大丈夫な楽器が参加していますので、編曲者はあまり吹きやすい調子を選ぶということはなく、ハーモニカの人も主に回転式クロマチックやホルンを使っていろんな調子の曲の練習について行きました。また、それだけの練習時間も十分ありました。
 社会人の合奏を教える立場になってみると、そうはいきません。クロマチックだけを吹く教室というのは非常に少ないと思います。多くの場合、複音ソロも習いたい、合奏も習いたい、ハーモニカは同じにしたいという欲求がありますから、複音の混じった合奏形態を取らざるをえません。複音ハーモニカは低音部と高音部がちぐはぐ配列(千鳥配列)になっていますから、中音部主体のメロディ・パートはまだしも低音部、高音部が出てくるセカンド・パートを演奏するのは非常に難しい技術を必要とします。
 そこに調子の問題もからんできます。C調とC#調の複音ハーモニカでいろいろな調子をこなすのはこれまた大変な技術を必要とします。クロマチックどころの騒ぎではありません。C調のハーモニカでC調の曲を吹くと、音程的には高いのでキンキンした演奏になってしまいます。そこで音程を下げたいのですが、#やbをたくさん付けると演奏困難、演奏不能、私止めますとなる可能性があります。したがって、複音が混じった合奏では#やbはせいぜい1個までしか付けない編曲をするようにしています。
 違う調子のハーモニカを使えばよいではないかとの案もありましょう。しかし、特製トンボを合奏のために何本も買ってもらうというのは経済的な問題がでてきますし、お年寄りが多いので、重たいという問題もでてきます。私は、せいぜいG調で吹ける曲までは取り入れるようにしています。それでもC、C#と合わせて3本はいつも持ってきてもらうことになります。
 クロマチックと複音が混じっている場合には、楽譜も本譜と数字譜の両方を用意します。また、セカンド・パートは複音では難しいので、クロマチックの人を割り当てます。ただし、複音がいつもメロディだけではつまらない面もありますので、時々オブリガートや流しの音を吹いてもらうように配慮します。
 メンバーがたくさんいれば、バスやコードも担当してもらいたいところですが、大抵どちらかが足らないことが多く、その場合には足りないパートを受け持って、なんとか演奏会をこなしています。トリオ形式だとバスやコードは専門性があってやってみると結構楽しいはずなのですが、合奏レベルだとメロディを希望する人ばかりで、リズム・パートの担当希望者が中々現れないのが残念です。
 選曲も悩むところです。私自身は艶歌があまり好きでないのですが、ポピュラーの曲を練習したとたんに艶歌好きの人に止められてしまったことがあります。また、艶歌っぽい曲を入れると、すぐ不満の声が出てボツにしたこともありました。
 私自身は暗譜力よりも読譜力を養うことが重要なポイントであると思っているため、半年ごとの演奏会が終わると新曲を入れるようにし、同じ曲をずっと練習するという方法は採っていません。おかげで、簡単な曲は、その日に演奏できてしまって、編曲に何日もかけたのが悔やまれるといったことも経験しました。一方、簡単なはずなのにいつまでも仕上がらない曲の傾向もわかってきました。そのキーワードはシンコペーションです。若い人はなんなくこなすシンコペーションですが、加齢と共に困難になるようで何度練習してもまとまらず、演奏会当日もやきもきします。近頃のはやり歌はシンコペーションが多いので、中々レパートリに加えるわけにいきません。
 そうすると昔の曲に目が行き、艶歌以外となると、私の選曲は必然的にフォークソング、スクリーン・テーマ、童謡などが多くなってしまいます。フォークにはいい曲が多いので、いまのところ皆さんには好評ですが、段々丁度いい手持ちの曲がなくなってきており、常に次の編曲に対する強迫観念があります。
 このように、メンバーのやる気を削がないように選曲、編曲段階でよく考え、合奏が楽しく長続きするように心がけているのが私の合奏ハーモニカの指導方法といってよいでしょう。
 

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