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クロマチック実践1



未発表

目次
音の軟らかさ
継続は力なり
呼吸法
運動神経
合奏の楽しみ
休符と音符の長さ


音の軟らかさ

 演奏会、発表会の後の打ち上げコンパはとても楽しいものです。白木屋とか魚民などの大衆酒場の広い座敷を占有して、たくさんのテーブルを囲んでカンパーイをしてから今日のよかった点、あまりよくなかった点などをわいわい喋りあいます。宴が進んでくると、コップを持って別のテーブルに移り、さらに話が盛り上がります。別のグループに属していて今まで喋ったことのない人とも面識ができ、なにしろ趣味がハーモニカという共通点がありますから、すぐお友達になれます。ハーモニカの品定め、演奏の技術論、次の演奏会の宣伝など色んな話題が語られます。お酒が入っているので、ついつい本音が覗いたりします。
 そんな会話の中で、クロマチックの音の柔らかさが話題になったことがありました。あなたの軟らかい音にいつも感心しているというのです。以来、この会話が頭の隅に残り、なんとなく気になっていました。確かに発表会的な演奏会で聞くクロマチックの音には硬い音が多いのです。
 今回は、このクロマチックの音の硬さ軟らかさについて考えてみましょう。
 いろいろ実験してみますと、音の硬さ軟らかさと口腔内の空間の形に密接な関係があることがわかりました。「ア」、「イ」、「ウ」、「エ」、「オ」の発音に対して口腔内の空間の形は変わりますね。「ア」と「エ」は口が開いてしまうのでクロマチックを咥えたまま形を作ることはできませんが、「イ」、「ウ」、「オ」の形は作れるでしょう。これらの形でクロマチックを吹くと、それぞれ音色が違います。このとき、「イ」や「ウ」では口腔内の空間が狭く、ハーモニカと肺の間の空気の流れが細く、リードへの当たりが鋭くなります。これらの吹き方のときに、音は硬く感じられます。一方、「オ」の形の場合には口腔内に大きな空間ができ、空気の流れは広い空間経由でリードへの当たりもより間接的になります。このとき、音は軟らかく感じられます。また、恐らく発音された音が口腔内の広い空間に共鳴して軟らかな音になる効果もあるのでしょう。
 そこで、自分がいつもどのような口腔の形で吹いているかを考察してみます。すると、「オ」よりはさらに口腔内の空間を広げるよう、顎の骨が下がった形になっています。思い出されるのはムンクの「叫び」の絵ですね。あの人にクロマチックを吹かせるときっと軟らかな音がするのではないでしょうか。
 口腔内の空間が狭い場合には、音が硬くなるだけではなく、音のピッチが下がってしまう危険性もあります。3オクターブの1番、2番の吸う「レ」と「ファ」の音がが出ない人、出ても変な音がする人、最高音部の音が出ない人、中音部が全体的にピッチが下がって聞こえる人、これらの人達は、今一度ご自分の口腔内の空間の形を点検してみましょう。狭くて通る空気の流れが細くなっていませんか。
 「セレソローサ」の曲を吹く場合には、音のピッチを連続的に下げ、音をとぎらせないでまた上げていくテクニックが必要です。この効果は、口腔内の空間の形が連続的に広い方から狭い方に、また狭い方から広い方に変化させることによって得られます。「オウーーオー」のような形の変化になります。ふだん「ウ」の形で吹いて口腔内の空間が狭い人は、この音を下げていくときの吹き方をしていることになりますから、全体的にピッチが下がり、かつ硬い感じの音になってしまう結果になります。
 この口の形はバス・ハーモニカの最低音部の音を出すときに必要な形でもあります。中音部と同じ吹き方をすると音が全く出ないことがあります。そこで、低音域では思いきって顎の骨を下げて音を出します。鋭い息の流れではなく、広い空間を通った間接的な息の流れが当たることによって、低音のリードが震えてくれるようです。
 軟らかい音の秘訣、それは顎の骨を下げることにあったんですね。
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継続は力なり

 複音ハーモニカのテクニックには、クロマチックのに応用できそうなものがいくつかあります。いくつか紹介してみましょう。
 私が取り入れているテクニックの一つはオクターブ奏法です。複音のオクターブ奏法は吹くときと吸うときで舌で押さえる間隔が違うのでかなり大変なテクニックですが、クロマチックの場合は「ド」の音をダブらせた配列になっているので、オクターブの間隔がどの音も同じになり、より易しいテクニックになります。とはいっても、複音ではすぐ隣の穴は吹き吸いに違いにより音が出なくなっているので、舌の両端にできる隙間が多少大きくても濁った音になりませんが、クロマチックの場合はどの穴も発音してしまうので、隙間の大きさが大きいと隣の音も出てしまって濁った音になってしまいます。
 このテクニックを使い始めた当初は、この濁った音が中々消えず困りました。しかしトリオ「ハミングバード」の出演機会が多かったので、めげずにこのテクニックを使い続けていました。そうするうちに、段々濁りが取れてきて十分実用に耐えるようになってきました。何度も何度も使い続けるうちに、耳と舌の連携ができてきて、次第にいい音が出るようになってきたのだと思われます。
 ただし、コツはあります。複音の練習をしているときに当時の先生から教わったのですが、舌をハーモニカに置く方法は、舌の裏がハーモニカに接触するように置くのがよいというのです。最初に教わったときには、舌の裏がハーモニカに付くという感覚が気持ち悪く違和感がありました。しかし、確かにこうするとオクターブ奏法の音がよくなるのです。先生は「ポンとした音が出るようになる。」とおっしゃっていましたが確かにあやふやな音ではなく、はっきりしたオクターブの音が出ます。
 そのコツを実演奏で何度も実践することによりいい音が出せるようになっていったのだと思います。
 紹介する他のテクニックでも同様のことが起きました。それはマンドリン奏法です。舌を小刻みに横に動かしてマンドリンのトレモロ効果を出すテクニックですが、複音の場合、隣の音が出ないので3個の穴の間で舌を動かしていればよかったのです。具体的にいうと、「レ」の音でトレモロしようとすると、隣の「ド」や「ミ」の音が出ないので付近の2穴や3穴を咥えていても音が濁るということはありません。しかしクロマチックでは全ての穴が発音してしまいますから、咥え方が大きいと音の濁りにつながるのです。
 それで当初はあまりきれいなマンドリン奏法にならなかったのですが、これも出演を繰り返しているうちに、舌がより小刻みに動くようになり、段々きれいなトレモロがかかるようになってきました。その中でコツも掴めました。紹介すると、舌の先はハーモニカに触れないのです。上の歯の裏側、それも根元あたりで左右に動かすことで息の流れが細かく途切れ、それがトレモロになります。また、舌が非常に速く動く人がいて複音でとても細かなマンドリン奏法をするのを聞いたことがありますが、あまり速いトレモロよりは、ゆっくり目のトレモロの方がムードのあるマンドリンの雰囲気が出るようです。
 今回紹介する最後のテクニックは5度奏法です。クロード・ガーデンさんが演奏したLPに「ホテル・ハピネス」という曲が入っており、私もレパートリに取り入れています。この曲のイントロ部分で5度奏法が使われ、とてもかっこいいのです。複音で分散和音ができる人であれば、5度奏法は簡単だと思われます。レバー操作を伴う感じのいい和音が使われていますが、これも何度も練習するうちにいい音になってきました。本番では一度しか使ったことはないのですが、今後はカラオケでも吹きたいと思っています。
 今回のテクニックを解説していて感じたのは、「継続は力なり」ということです。あきらめずにいろんなテクニックに挑戦し続けましょう。
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呼吸法

 曲によっては、吹く音ばかりが続いたり吸う音ばかりが続いたりすることがあります。吹く音の場合は肺活量を測る場合のように我慢して吹くと、いくらか空気が残っているので何とか演奏を続けることができます。ここを我慢できる人とできない人では演奏に大きな差がでます。苦しくても苦しくても頑張って吹き続けられるようにしましょう。
 吸う音の場合にはもっと苦しいですね。これは我慢して吸おうと思っても、肺が一杯に膨らんでしまうとどうにもなりません。きっとハーモニカ奏者だけが味わう問題かもしれませんね。他の吹奏楽器は吹いて音を出しますから。
 一つの解決法は、鼻呼吸です。初心者の方に多いのですが、ハーモニカを通してだけしか呼吸しない人がいます。このような人は、吸う音より吹く音の回数が少ないと、すぐ肺が空気で一杯になってしまいます。私達は、演奏しているときに鼻からも呼吸することでこのような事態を回避しています。吸う音が連続しているときにたまに吹く音が来ると、それっとばかりに鼻から空気を吐くのです。もちろん逆の場合もあります。吹く音が続いてたまに吸う音が来たときには鼻からも大量の空気を吸うのです。
 一見簡単な鼻呼吸も、できない人にとっては中々できないものらしく、口で説明していても埒が開かないので、なんとか鼻呼吸を会得してもらいたいものだと願わずにいられません。
 注意事項として、鼻呼吸のときに演奏を乱してはいけません。勢いよく鼻から息を吐いたはいいが口からの音も大きくなってしまったり、鼻から息を吐くことにより口から吐く息が少なくなって音が小さくなってしまったりしては、演奏にムラが出てしまいます。演奏しているときには、演奏ばかりでなく耳で鑑賞することも必要です。特にオープン・マイクの前で演奏する場合には、鼻息がマイクに当たらないよう気をつけて下さいね。
 もう一つの解決法は、替手を使うことです。替手ということば自体はギターやバイオリンのような弦楽器で同じ音を出すのに違った手のポジションを使うことから来ているのだと思います。クロマチックでは、同じ音を出せる場所が何箇所かあるので、それを利用することを替手を利用すると表現することにしましょう。
 替手が使えるのは、F(ファ)の音を#E(ミの#)で出す場合と、C(ドの音)を#B(シの#)で出す場合です。
 吸う音が連続して苦しいとき、F音がその中に含まれていれば、替手の#Eを吹きます。ついでに鼻呼吸で肺の空気を吐き出してしまいます。吹く音ばかりが連続して苦しいときは、替手の#Bを吸います。鼻呼吸で吸うことも忘れないでください。このように替手を利用すると吹き吸いを変えることができるので、演奏がぐっと楽になります。
 替手は演奏をスムーズにするのにも役に立ちます。吸う音や吹く音ばかりの早いフレーズって案外うまく吹けないものですが、替手を使うことで吸う音と吹く音が適当に交じり合い、安定したテンポで演奏できるようになる場合があります。例えば「チャルダッシュ・インターメッツォ」の中に
 F bE D bE F bE D bE
なんていう早いフレーズがあります。このまま演奏すると吸う音の連続となり中々決まりません。しかしF音を#Eの替手を使うことにより見事に決まるようになるという経験をしたことがあります。
 さて、息の苦しさを解決する番外編ですが、「闘牛士のマンボ」で音を長く長く引っ張る場面があります。いかに長く続けられるかがこの曲のポイントです。学生時代の先輩は、長く引っ張っている途中に拍手がくると、そこで悟られないように素早く息を吸い直し、さらに音を引っ張って見せるという技を持っていました。私自身はそこまでずうずうしくないのでまだやったことはないのですが。
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運動神経

 クロマチック・ハーモニカの練習を本格的に再開したのは初老の声を聞いたころからでした。
 最初に困ったのは、学生時代にスラスラ読めたb系の楽譜が読めなくなっていることでした。ここであきらめてしまうと、多分ずっと読めないままで終わったかも知れません。しかし、トリオを結成してからは練習する曲の数が飛躍的に増えたので、自然に昔の読譜力が戻ってきました。
 次に困ったのは、指と呼吸の同期がうまくとれないということです。要するに運動神経が鈍っていて、吹き吸いとレバーのボタンを押す動作が一致しないのです。
 簡単な音階なのにこの現象に悩まされたのはト長調です。

  ソ ラ シ ド レ ミ #ファ ソ

の上昇音階で「ミ #ファ」の部分、下降音階で「ソ #ファ」の部分などでボタンの押しがうまく吹き吸いのタイミングと合わず、タラッと装飾音が入ったようになってしまうのです。
 また、難しく感じる音階にニ長調があります。私は上昇と下降を繰り返す練習をよくするのですが

  レ ミ #ファ ソ ラ シ #ド レ ミ レ #ド シ ラ ソ #ファ ミ

を何度も繰り返す練習をすると、「#ド」が短い感覚ですぐに出てきてしまい、ボタンを押す動作が遅れがちになってしまいます。
 このような状態ではとてもスムーズな演奏はできないので、なんとか克服したいと思いました。
 そこで、夜中の犬の散歩時に音階練習をするかたわら、特別に次のような練習を加えました。
  ミ #ファ ミ #ファ ミ #ファ ミ #ファとか
  #ファ ミ #ファ ミ #ファ ミ #ファ ミ
を何度も繰り返します。
 これが、「ミ #ファ」のときと「#ファミ」のときでまた感じが異なるから不思議です。最初の音がボタンを押した状態なのか離した状態なのかで筋肉の動きが違うのでしょう。
 ト長調では同様の練習を「#ファ ソ」、「ソ #ファ」についても実施することが必要です。またニ長調では、「#ド レ」、「レ #ド」、「シ #ド」、「#ド シ」についても必要です。
 練習に入っても、年齢と共に衰えた運動神経は中々回復してくれませんでした。いつまでたっても装飾音が入るような音がします。これらの音の組み合わせはいやだなーという苦手意識も出てきました。しかし、少しずつですが上達はするものですね。だんだんに指と呼吸の同期が取れる実感が沸いてきました。初期の頃から比べれば、現在は格段に良くなってきたと思います。
 これが、若い十代の人であればもっと短期間で習熟できると思います。でも、年輩者は衰えているのですから、なるべく早くそのことを自覚して、努力して運動神経を回復させるようにしたいものです。
 これら苦手のパターンは、#が1個または2個という、比較的単純な調子でよく出てきます。b系の調子ではこれらのパターンは出てこないので演奏が楽ですし、#系でも#の数がもっと増えるとこれらのパターンが減って、むしろ楽になるのです。楽譜を読むという点では記号がたくさんある調子がつらく思えるでしょうが、演奏の楽さとういう点では、#が1個または2個のときが一番難しいように思います。
 典型的な例は、モンティ作曲「チャールダッシュ」の後半、ニ長調の部分でしょうか。それまではb系で案外楽に吹けてきたのに、ニ長調に転調するととたんに難しくなります。
  「レ ミ #ファ ミ レ ミ #ファ ミ ...」
を急速なテンポで吹かなければならないので以前はとても苦手な部分でしたが、最近は訓練のおかげか、なんとかなるなという感触が掴めてきたのです。実はまだ人前で吹いたことがないのですが、いつかはピアニストと組んでお披露目したいと考えています。
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合奏の楽しみ

 合奏を主体としたハーモニカ教室やグループでは当然ながら合奏をします。そこではパートがいくつかに分かれます。
 簡単な編成の場合には、
  パート1
  パート2
だけに分かれているかもしれません。また、そこに伴奏用のバス・ハーモニカとコード・ハーモニカを加えた編成がハーモニカ界ではよく使われ、クァルテット編成になります。私が属しているバンドの一つ、ハーモニック・オムニバスでは、これに低音部を担当する
  ホルン・パート
を加えて、クインテット編成にしています。最近はメンバーが増えてきたので、パート1とパート2には複数のメンバーがいます。
 バス、コードの役割はほぼ伴奏専門ではっきりしています。
 パート1は主にメロディ(旋律)を吹くことが多いでしょう。時にはそのうちの一人だけがソロ・パートを担当することもあるでしょう。パート2は、パート1の低音部を担当して二重奏的な和音をつけたり、オブリガート(対旋律)を担当したり、ユニゾンで音の厚みを増したりします。ホルン・パートは、低音部の流しを担当するとか、時にはメロディのソロを担当してもらい、音の単調なハーモニカの合奏に変化をつけたりします。
 さて、どのパートが面白いでしょうか。実は、初心者の方はメロディ以外の部分を担当するのが大変難しく感じられるようで、したがってパート1を担当してもらうことになります。そして、メロディを吹くことを大変面白いと感じます。
 パート2は低音部やメロディと関係ないオブリガートを吹くのでかなりの技量を要します。初心者をパート2に割り当てると多分吹くのが精一杯で、和音のハモリとか対旋律のかっこよさを楽しんでいる余裕が持てないでしょう。また、知っているメロディが一度も出てこなかったりでつまらないと感じるかもしれません。したがって、上達してパート1が単調に感ぜられるようになると、パート2を担当してもらえば楽しんでもらえます。「あ、いまハモッているな。」とか「メロディと掛け合いのオブリガートをやってかっこいい。」とか「この流し、きれいだな。」とかを意識しながら演奏すれば、きっとパート2が大好きになるでしょう。
 ホルン・パート(クロマチックを使ってパート3といってもよいですが)は、流しとかリズム打ちが主体になります。流しは譜面で見れば全音符が並んでいたりして単調に見えるかもしれません。しかし、例えばTVのCMで流れるヨーヨーマの表情を思い出してください。スローな音をチェロのゆっくりしたビブラートをかけて弾いている彼の姿は恍惚の世界に入り込んでいるように見えます。決してただ音を延ばすだけでなく、強弱に気を配り、ビブラートの速さを調節しながら吹くようにすると、実に音楽をしている気分になれます。このパートが複数人いれば、重奏に分かれて和音を担当し、ハモリを楽しむこともできましょう。一人でも、パート2とハモれば同じです。学生バンドでは、コード・ハーモニカがないのでホルンやパート2がリズムを刻むことが多かったのですが、一般の教室ではあまり行われていないようです。
 結論をいえば、どのパートもそれぞれ楽しめるのです。それぞれの役割を認識して、自分のパートだけに集中するのではなく、他のパートとの役割分担を演奏の中で楽しみましょう。それがアンサンブルです。
 ただ、私個人は、クロマチック・ハーモニカは別の楽器とのアンサンブルの中でオブリガートを担当するのがとってもいい使い方だと思っています。それで、ハーモニカ・トリオの編曲をする場合にでも、バスなんかにメロディを振ってクロマチックがオブリガートを担当する場面をなるべく取り入れるように心がけています。メロディ、バス、コードだけのトリオはどうしても単調になってしまいますから。
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休符と音符の長さ

 ハーモニカ・トリオのようにほとんど休みなくメロディを吹いている場合と異なり、合奏の場合にパート毎に何小節か休むことがあります。このようなとき、休符で休みが示されている訳ですが、「あ、休みだ。」と思うためか、本当に休んでしまう人がいます。休んでしまうから、今どこまで進行しているかわからなくなり、次の音出しに遅れたり早まったりしてしまいます。
 こうなることを避けるためには、休符を休みだと思わず音符の1種だと思って取り組む必要があります。つまり休符一つ一つに対してしっかり反応していくことです。
 例えば、全休符があると、その前の小節の最後の音を平気で延ばしてしまう人がいます。これは全休符が来たとたんにしっかり音を止めるように心がけましょう。そうでないとメリハリがつきませんし、そのパートが休んでも別のパートが音を出していますから、不協和音になってしまうこともあるのです。
 また、すぐそこから休みの数を数え始めないと、8小節休みとか3小節休みとかの休みの小節の数がわからなくなってしまいます。練習を積むことによってだんだんどこで入るかわかるようになっていくのは事実ですが、しっかり数えていれば仕上がりの早さにもつながりますし、よりたくさんの曲の練習に取り組むことができるというものです。
 休符や音符のの悪い取り扱いの例を示しましょう。本番前の練習で、音の最終確認をしているのでしょうか、休符は全部無視して音符だけを拾って音出ししている例を少なからず見かけました。また2分音符や全音符の長さの延び方も無視し、とりあえず音だけ拾っているのです。これは周りで聞いていると非常におかしなものですし、複雑なリズム・パターンの場合にこんな練習をしていて大丈夫なのかなと心配になってきます。曲には拍子があり、4拍子とか3拍子で小節が区切られています。途中の音の長さや休符の長さにによって小節が決まるのに、それらを無視して音だけを拾うというのは、小節の区切りがわからなくなる原因となりますし、体の中に4拍子、3拍子などのリズム・パターンができあがるのを妨げてしまいます。小節の中では強弱中強弱とか強弱弱のような暗黙の強さを表現することも求められていますから、小節の区切りがわからなくなるのは音楽性を失わせることにもつながります。
 演奏しながら音符とか休符の長さを数えるためには、足を踏んで1拍ずつトントンと拍子を取っているのが有効です。ところがこれを正確にできる人が少ないので困ります。典型的なパターンは、楽譜上の音に足の動きも合わせて細かく動かしてしまう場合です。足のリズムは音符、休符に関わらず1拍ずつの一定のリズムを刻んでいなければなりません。ところが、シンコペーションや2拍内の3連符が出てくるとこれが怪しくなってきます。
 シンコペーションの場合には、足が床に着くのと音出しが反対の関係になるはずなのですが、それをついつい一致させてしまうのです。つまり、シンコペーションはリズム的には不安定なのに足が安定性を求めて動いてしまうのです。これは、ゆっくり反復練習をして、足と音の出だしの不安定な関係を頭脳に理解させてしまうしか解決方法がないかもしれません。歩きながら吹くという方法は、足のリズムが一定なので有効かもしれませんね。
 2拍内の3連符の場合もそれぞれの音の出だしは足が床に着くのと一致していないのにやはり安定性を求めて一致させてしまうことに原因があります。この解決法としては、4拍子のときに1拍毎ではなく2拍ごとに足を踏むというやり方があります。1小節で4回ではなく2回しか踏まないようにします。慣れるにしたがって、1拍毎に足を踏んでいてもできるようになります。
 なお、演奏会本番では足を踏む音がしてはまずいので、足の親指だけ動かすとか、両足の体重移動で拍子を取るとかの気配りをしましょう。本番近くの練習からやっておいたほうがいいでしょうね。
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